クラシックギターのフォーラム
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河野智美さんのコンサートに行きました。

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河野智美さんのコンサートに行きました。 Empty 河野智美さんのコンサートに行きました。

投稿  whooper 2010-06-21, 11:04 am

女性ギタリストの演奏会が後引いて先週末に河野智美さんのコンサートに行きました。現代ギター社ってネット
ではお馴染みですが行った事はありませんでした。仕事終えてから地下鉄有楽町線の要町を目指します。池袋の
一つ先ね。二十年近く東京にいますが地下鉄・私鉄の網の目は分かりません。この線は和光市、更に小江戸と呼
ばれる川越まで続いてるんですね。

要町降りて地図の方向に歩くとありました。かなり昔風のビルですね。一階にギター・ショップがあるので入っ
たらアコギ・エレキ店でクラギとGG社とは全く関係ないとの事。ふーん、焼き鳥やかおでん屋でもやったらク
ラギ・ファンが夜な夜な集まって盛り上がると思うんですが。

あのね、穴場の飲み屋なんですが、大阪の京橋にどエライ立ち飲み屋があるんです。何とか肩ねじ込んで「酒と
ブツ」と頼むとおっちゃんがその日仕入れたマグロの赤身塊から角切りして出してくれる。ここの仁義はせいぜ
い酒二杯まで。毎日同じ時間に現れて同じもん喰って飲んで立ち去るのが粋筋ね。

5人も乗れば息苦しいエレベータで三階へ。ここは店になってます。ギターもラミレスの67年復刻モデル150万を
始めに海外の名工の作を展示販売してます。本当の手工品となれば50万が国際相場の下限かも知れないかな。ハ
カランダ製ギターなんて七面倒くさい輸入手続き踏まないといけない。ここでは河野・桜井モデルは別枠なのか
な。CDや出版物が多々。「名演奏の手引き」なんてのがバック・ナンバーで揃えてある。海外からの輸入譜もキャ
ビネットに色々豊富にあります。現代作曲家もありますね。試しにFederic Monpouの「歌と踊り」を探したらちゃ
んとありました。でもこりゃもう現代物じゃないですよね。

弦も有名所は揃えてます。話飛ぶけどFacebookでドイツの女流プロ、ハイケさんが「サバレスから新しい弦の
Cantigaが出たわよ。私試してみるけど、皆もどうぞ」って書いてるので「田舎にはそんなもんあらへん。町に買
出しに行かねんば」と冗談交じりに書いたらサバレスの通販を紹介してくれました。でも欧州からの送料はかな
り嵩むから銀座のヤマハにでも行こうかと思ってました。ヤマハも建て代わったようですからね。

Cantigaの事を尋ねるとちゃんとありました。ハイテンとノーマル二種類あって試しにノーマルを買いました。な
んでも低音弦が全く新しいとの事。高音は従来のAllianceですが低音はCantigaと表示されている。プロの評判も
良いとの事です。いずれ又使用感なぞ書きますね。

開場の時間となったので4階に上がりました。ホールはそうだな幅10メートル奥行き15メートル、舞台が高くなっ
てます。僕ら東京一座が使ってる稽古場より小さそうでキャパは100名位かな。九分位の入りです。勤め帰りのサ
ラーリマン風、修行中の若手、色々、前回見かけたようなむっつり衆もいますね。主催者の挨拶があって河野さん
が登場なさった。前回は女性らしいロングドレスでしたが今回はボーイッシュなパンツ・ルック。原宿なんか歩い
てると映えそうですな。最初に曲目の紹介を語って下さる。

バッハ、無伴奏バイオリン・ソナタ 第二番BWV1003 からアンダンテとアレグロ  これは前回も演奏されま
したね。私見はそちらをお読み下さい。

レゴンデイ、エチュード 一番 ハ長調

レゴンデイの作品でもこれが一番有名かな。私もなぞります。私のはMatanya Opheeが出してるGiulio Regondi
10 Etudes です。別に速度の指定はなかったようですがかなり早くアレグロ程度で弾くのが正調なのかな。You
Tubeで若い男性プロが弾いてるの見ましたがF1並みの速さで弾いている。要所要所ルバートしてガクンとシフト・
ダウン。ヘヤピン抜けるみたいにテンポ揺らしてました。河野さんのはめりはり利いてて良かったですよ。

筋書きがしっかりしたとても良い曲ですね。「朱儒の祈り」に通じるものがある。朱儒とは何かと言いますと小
人の事、転じて見識の無い人、無学な人、更に取るに足らない人物と差別用語かも知れない。文豪芥川龍之介の
作に「朱儒の言葉」があります。これは断章と言うか箴言と言うか含蓄のある短文を集めたものです。芥川の文
体は計算され尽くされてるから芥川本人の素顔は見えませんね。芥川は「朱儒の言葉」の冒頭に「これは私の思
想・信条ではない」と断ってますが、かなり本音に近いです。「朱儒の祈り」は取るに足らない人物の口を借り
て芥川の自戒を語らせています。ご興味ある方は芥川、朱儒の言葉でググると20ページ足らずの無償版がダウン
ロード出来ますよ。

自戒では宮沢賢治の「雨にも負けず」がありますね。雨にも負けずで始まってうじゃらくじゃらが延々と続き、
最後に 「そういうものにわたしは なりたい」で括る。前置き長いんだよな。何の話だっけ?河野さんのレゴ
ンデイでしたね。脱線ついでに受け売りになりますがちょいととこの曲の経緯なぞ。

なんでロシア物が売りのOphee がレゴンデイ出してるんでしょうか?レゴンデイは生前この曲を公開しなかった
ようでセント・ペテルスブルグのギター協会が手稿を手に入れてます。セゴビアが訪ロした時に献呈したがセゴ
ビアは興味を示さなかったと解説されてます。

レゴンデイ、夢

私の思い込みかも知れないがレゴンデイの作は上記以外あまり聞く機会がないと思います。そこで事前に河野さん
のブログで作品番号をお尋ねしておきました。正確には "Reverie, Nocturne, op.19"です。これはBoije文庫から無
償でダウンロード出来るので下調べしておきました。

出だしはLarghetto でD mollの重々しいスケールの上り下り。D durに転じてかなり振幅の大きなアルペジオ、次に
そのままトレモロに入ります。これもかなり細かくて大きな起伏があります。G durに転じて和声進行が暫くあって
又トレモロに入り静かに終わります。

私流に言いますと演奏は別として宮沢賢治風なんだな。華のトレモロに至るまでの仕掛けが長いんだな。もちょっ
とさらっとした導入部かいっその事トレモロから初めても良いんじゃないかな。何かこれでもかって難技見せてか
らはいどうぞって感じ。まああの頃の趨勢を考えればこういう構成も止むを得なかったんやろか。

19世初頭はソル・ジュリアーニ・カルリと言った巨匠達の黄金時代でしたね。しっかりした和声法と様式美に支え
られた安定した世界でした。ロマン派に入り後期ベートーベンのピアノ・ソナタに見られるように従来の様式範疇
を乗り越えて行く。「疾風怒涛、Sturm und Drang」の如くより個性的で訴えかけるような作風に発展して行きま
すね。

元々サロンの楽器だったギターも例外ではなく、MerzやCosteに代表される名人芸が好まれるようになった。楽
器にも大音量が求められる。Costeは多弦ギターを開発して使ってましたね。Mertzは難曲を書いてますがオペラ
のアリアを片っ端からギターソロに編曲してる。受け狙いかも知れないが生き残るには賢明な選択だったんでし
ょう。

河野さんのトレモロとても良かったですよ。弦を愛しんでるようにお見受けしました。自分が根っからその曲を
好きにならないと本当に聞き手の心に届く演奏は出来ないでしょうから。

吉松隆、風色ベクトル

初めて聞きましたし作曲者も知りませんでしたがググるとこの人ちょっと屈折してますね。アルモニコスがのっけ
から延々と続く。そのまま終わるのかと思ってたらジャカジャカ鳴り出した。うーん、国、文化、思想等乗り越え
たらこんな感じの無国籍風になるんじゃろか。邦人の作と言われなければ分からないなー。

ここで15分程水入り。これまでで感じたことは予想したよりも音量がなかった事ですね。まあ後に難曲が控えてる
ので力をセーブされてたのかも知れない。それとも私の耳がサロン風の響きに馴染んでなかったのかも知れない。
後に成る程鳴り出しました。但し現代曲を聞くとド下手か馬鹿ウマか分からへん。チョンボもアドリブかもしれん
から。

私の近くに上品な年配の女性が座ってらした。最初音大の先生かなと思ったけどそうでもなし。休憩中に同年輩の
女性が来て親しく話されてる。「子供がどうのこうの(河野?)と」小耳に挟むのでそれとなくご尊顔を拝見した
ら河野さんと似てらっしゃる。ひょっとして母上様では?曲終わっても拍手なさらないので主催側の方とお見受け
してました。

若い頃音楽の仕事をしてました。本部が送り込んで来る演者に相応しい場と聴き手を用意し演者の面倒を見る役
割です。クラシックが主だったのですがメリケンのジャズメンと公演を重ねるうちに親しくなりました。彼らか
らとても大事な事を教わりました。「誰かの演奏聴いたらまず拍手するんだ。プロでもアマでも子供だろうがま
ずは礼を尽くすんだ。お前も楽器やったのなら人前で演奏するのがどれだけ大変か分かるだろう。下手でも間違
っても構わない。完全な演奏なんて出来るものじゃない。プロには愛想使うこともあるがアマや子供には精一杯
拍手して俺のエネルギー届けるんだ。よかったぞ、次も頑張れって励ますんだ」じーんと来ましたね。ややもす
ると口さがない事いいたくなるのが人情。本当のプロはとても謙虚です。

でも「褒め殺し」って事もある。実際に彼らと経験しました。公演がはねてホテルに戻り夕食に外出しました。
何もなければハンバーガー屋に入るが大抵は安い飯屋に行きます。食後は居酒屋かホテルに戻り誰かの部屋で持
ち込んでる酒飲んで寛ぐ。アルト・サックスの名人はエア・ギターも上手い。十八番はイーグルスのホテル・カ
リフォルニア。CDバックに熱演します。

あの晩は散歩してました。酒の自販機があったので「ビールでものもか」と誘ったら「おい、やばいじゃないか」
と敬遠する。メリケンは暴力、Sex、ドラッグが蔓延してるように見えますが固い所は無茶苦茶固い。酒は街中で
は飲めません。酒盛りでもしてたら通報されてCopにパクられる。ホームレスのアル中は紙袋に酒瓶隠して飲んで
ます。だから連中公道でおおっぴらに酒飲めるのが嬉しくてたまらない。皆ロング缶あおりながらぶらってる。
のん兵衛だから次の自販機に目光らせてる。「あはは、戻るまでに何本飲めるかな。」

人気の少ない裏通りにさしかかかり偶然テレビのロケ班に出会いました。某テレビ局が近くにあるからなんでしょ
う。ちゃんばらトリオで張り扇使って仲間をしごく怖い顔のおっさんが鳥打帽子被って電柱の後ろに身を潜めてる。
多分刑事役なんでしょう。容疑者が動き出すと咥え煙草を足元に投げ捨てて後を追う寸劇です。

カチンコが鳴って何度かリハする。僕ら敬意を表してその度に拍手しました。そしたら何事かと人が集まって来
る。「何やっとるんやろか?あっ!張り扇のおっさんや 真面目にやれ」ってな感じで僕らにつられて拍手する。
そしたら余計にどんどん人が集まって来る。ロケ班は凄く迷惑顔で張り扇おやじは渋い顔が一層渋く歪んでしま
った。主役は早々に切り上げて消えました。それでも一箱分位火の付いてない煙草が落ちてたかな。その後マネ
ージャらしき人物がデイレクター呼びつけてえらい剣幕で叱ってる。「先生はとてもご立腹だ。お前の段取りが
悪い」とでも

メリケンなら役者冥利に尽きるのかも知れないがこそっとした寸劇をこそっと撮りたかった連中にはえらい迷惑
だったんでせうね。最初に静かにして下さい(Be quiet please)とでも言って貰えれば控えたのに。日本人相手な
らそうしたかも知れないが。何せブラス吹いてるガ体のでかい異国人だし酒飲んでるの丸分かりだからビビった
のかも知れない。御免なさい。本物のミュージシャンは礼儀正しいんです。何の話だっけ?河野さんのギターで
したね。つい若気の武勇伝のたくって御免なさい。二部が始まります。

グージョン ラメント、スケルッオ(新作初演) 全く知りません。
セゴビアーナ、ミヨー 作曲者は知ってるけどこんな作品があったとは知らなんだ。

ラメントって嘆きとか悲哀の意味だと思うけどそうなのかな。どっちもギターに複雑な音出させてるって感じ
です。

ドメニコーニ トッカータ・イン・ブルー
ボグダノビッチ ジャズソナタより1、2、4楽章

ドメニコーニ作は聞きやすくて良い曲ですね。ボグダノビッチは前回聞きました。解説されてたようにどっちも
ギタリストで歌わせ方分かってるからこういう風になるんでしょうね。河野さんはこういった現代物がお得意な
のかな。楽器も良く鳴ってましたよ。

さて全曲無事終わってアンコールです。横尾幸弘編曲「埴生の宿」。最初に横尾先生に習われたと語られてまし
たね。以前書いたけど日本では「ヨコオ」だけどあちゃらでは「ヨーコー」と「サクラ・バリエーション」で通
ってる。昨年お亡くなりになったんですか。

氏の「埴生の宿」を初めて聞きました。長調の曲だからあっかーるいナショナル風かと思ったら、びっくり暗ー
い短調で始まる。メルツ風かと思ったけどありゃ古賀風味だな。昔も今も音色で売れる古賀メロデイー。日本人
の心情に迫りますな。色々手を代え品を代え聞かせて頂きました。トレモロ綺麗でしたよ。イギリス民謡だから
あちゃらの人はどんな印象持つでせうかね。

ご紹介のようにこの曲は映画「ビルマの竪琴」に巧く使われてましたね。竹山道男さんの原作で第一作目は陰影
に富むモノクロでしたが二作目はカラーだったから役者達の演技や現地の風情をより巧みに描いていたように思
います。音大から学徒出陣を余儀なくされた中隊長役に 石坂浩二、娑婆では煮ても焼いても喰えないが軍隊と言
う特殊な世界では欠かせない鬼軍曹役には大部屋から出世し河内のおっさんの歌やキツネどんべえで売った川谷
拓三。残念ながら夭折。主人公の水島上等兵には端正は顔立ちの中井貴一が扮してました。

筋書きは皆さんご存知の通り。捕虜となった「歌う中隊」が内地への帰還が許された時最後に歌うのがこの「埴生
の宿」 鉄条網の向こうに黄色の袈裟を纏い肩にはオウムを乗せ竪琴を抱いた僧侶が現れる。兵はどよめき「おー
い、水島。一緒に日本へ帰ろうや。」と呼びかける。それに応えて僧侶は「埴生の宿」の幾節かを竪琴で紡いで合
掌し消えて行く。涙ぼろぼろこぼして精一杯歌う鬼軍曹の姿が浮かびます。良い映画でしたね。有り得ない話だけ
どそうあって欲しいと願う戦場のメルヘンでした。

同じ戦争物で脇役が際立ったのが大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」。国際レベルで活躍する坂元龍一と
英の人気歌手デビット・ボウイの男気勝負。音も映像も良かったですね。大島監督は良くこれを映像化したと思
います。原作はローレンス・バン・デルポスト卿の「影の獄舎にて」。この人は南アフリカ生まれの白人でイギリ
スに渡り作家生活を送ります。戦前日本にも来ていて細やかな目で私達の文化や伝統を描いてます。大戦中は軍役
に服し緒戦の頃当時の蘭量バタビア、今のインドネシアで日本軍の捕虜となり終戦まで収容所で過ごします。

まあ映画の筋書きは誇張されてるけど旧日本軍の暗い面を一心に背負った原軍曹役のビート武が光ってる。粗野で
無学で残忍。敗戦で主客転倒し囚われの身となり捕虜虐待の咎で死刑判決を受ける。最後に原作者と思しきローレ
ンス中佐が面会に訪れ祖国に忠誠を尽くした原軍曹は Merry Xmas, good bye, Mr. Lawrence と挨拶し映画は
終わります。これにて戦場のメリークリスマスは完結 大島監督はこの言葉を暖めていたんでしょうね。ビート武
泣かせるよな。北野武監督映画に色濃いバイオレンスはこの頃から芽吹いてたのかも知れない。

ギター評の筈が手前勝手な映画評になっちゃった。お許し下され。
whooper
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投稿数 : 627
所在地(Location) : Osaka Japan
Registration date : 2008/11/13

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